(1)球場グルメは「美味しい」が最優先
──神宮球場で販売されているグルメにおいて大切にしていることはありますか?
私たちは常に「美味しくなければ売れない」ということを意識しています。有名選手の名前をつけただけの安直な考えの商品では決して、お客様に喜んでいただけないです。これは当球場にご協力いただいているテナントも含めた共有認識ですが、グルメは「美味しい」が最優先です。
──やはり「美味しい」というのが重要なのですね。
そうですね。他には万人受けするものでないと売れませんよね。
──「川端慎吾カシスオレンジ」などのカクテルは口当たりがいいから、来場者から好評ですよね?
おっしゃるとおりです。カシスオレンジは口当たりが良いですからね。他にも川端選手はイケメンなので、女性に人気がありますからね(笑)。
ただアルコール度数が高ければ良いということではないです。ワインのようなものは人によっては口に合わない場合がありますので、万人に楽しんでいただけるわけではないですからね。
(2)シーズンオフに新しい球場グルメが誕生する
──選手グルメの企画は球場、球団、どちら側から提出されるのですか?
私達から球団に企画を出して、了承が出たら販売を開始します。
──企画書が提出されてから、商品化されるまでの流れを教えてください。
申請するのに時間がかかるのでシーズンオフの11~12月までに企画書を作り上げて、球団側に提出します。その後、球団から了承を得た商品はPOPや販促物の打ち合わせをして、キャンプの時期頃に準備が完了します。
──選手グルメに選定されるのはやはり試合での活躍度に応じてですか?
それもありますが、時事性も考えています。例えば今年から販売開始した「秋吉亮のエナジーハイボール」は、秋吉選手がWBCのメンバーに選ばれたことも関係していますしね。
──選手グルメのレシピは須野さんが作っているのでしょうか?
はい、私達で試作品を作り、皆で意見を出し合いながら完成させていきます。
──肝心の味を決定する際は選手から意見はもらいますか?
もちろんいただける場合は積極的に頂きます。例えば館山選手がプロデュースした「館山昌平のビーフステーキ」は最初、添え物はジャガイモだったのですが本人の希望でブロッコリーに変更されました。後は石川選手がプロデュースした「勝つ男!石川雅規のビクトリーカツサンドセット」。こちらも本人からチーズを入れてほしいとリクエストを頂きました。他にも今年から販売開始した「坂口智隆!グッチのオム焼きそば」は、本人に好物を教えてもらって企画しましたからね。
──球場で売られているものについては、選手の皆さんは口にしているのですか?
現在二軍にいる一部の選手以外は試食していただいています。それこそ「勝つ男!石川雅規のビクトリーカツサンドセット」は登板前に石川選手に食べていただきました(笑)。
──選手プロデュースグルメは対象選手にロイヤリティーは発生するのですか?
もちろんです。
──ある意味ではグルメを楽しむことで、選手を応援できますね(笑)。一点気になったのが「館山昌平のビーフステーキ」は販売がアスレキッチン様でしたよね?このようにテナントが関わっているメニューはどのように作り上げられていくのですか?
我々が企画を考えた後に、テナントの皆様に相談しました。本当、素晴らしいアイデアと努力で応えてくれました。これからも協力しながら魅力的な選手グルメを増やしていきたいです。
(3)「ここでしか楽しめない物」を作り出したかった
──思えば2014に販売された「ココモポリタン」から、本当に選手グルメが増えていきましたよね。2014年は、バレンティン選手が60本ホームランを打った翌年なので、記念の意味も込めて販売されていたのかと思います。
もちろん、記念の意味もありましたが、「ここでしか楽しめない物」を作りたかったという思いが強かったです。しかしながら当時は販売経験がなかったので売上予測も立てづらかったですね。
ドリンクの場合は「ここでしか楽しめない物」という雰囲気を高めるために、カップも選手名やシルエットが入ったものを積極的に採用しています。分かりやすい例ですと「山田哲人ハイボール」です。商品の販売自体は2015年から行っていましたが、翌年も同じままで販売しても飽きられてしまいます。年ごとにデザインの変更も行っています。
──売上に効果がでましたか?
でました。やはり通常のカップで飲むより、選手名やシルエットが入ったもので飲んだほうが受けますよね。毎年デザインを考えて、少しずつ変えています。細部にこだわれば、ファンの方も気づきますからね。特に「山田哲人ハイボール」は色映えも良いので皆様、SNSに投稿してくれて知名度が高まりました。
──「ここでしか楽しめない物」を追求する過程でMLBの商品なども、参考にしていますか?
もちろん参考にしています。今はインターネット・SNSが普及しているので、勉強のための情報収集がカンタンになりました。MLBはロゴを上手く使っているので、参考になります。飲食はもちろん、Tシャツなどのグッズからもアイデアをいただいています。
(4)他球団との交流で野球界を盛り上げたい
──オリジナルグルメは現在、様々な球場で展開されていますが、他球団との交流は?
毎年12月に合同会議がありますので情報交換をしています。あるいは他球場に視察に行ったとき、色々と意見交換を行っています。
──積極的に意見交換を行っている球場があれば教えてください。
関東近辺、特に屋外の球場と仲良くしています。やはり同じ屋外同士のほうがビールの売上予測などが近いのでとても参考になります。
──2015年の日本シリーズでは、外野席で福岡ソフトバンクホークスの球場メニューも扱いましたよね?
その頃「グルメ交流しよう!」と福岡ソフトバンクホークス側から話がありました。うちからは売上が一番、伸びていた「山田哲人ハイボール」を出しました。あちら側から広島風お好み焼きの「ギータ焼き」を提供いただきました。
2015年は山田選手と柳田選手がトリプルスリー達成したということで、コラボグッズも販売していたので相乗効果が大きかったです。
──他球団に自分たちのレシピを見せるのは勇気がいることですよね?
今は12球団全体で、野球界を盛り上げようという雰囲気になっているので包み隠さず、公開しています。他球団も積極的に手の内を見せてくれますからね。一番近いものでは2017年の交流戦、京セラドームで「山田哲人ハイボール」、神宮球場で販売している「ヘルメットグルメ」を販売していただきます。球団の枠を越えてお互い、盛り上げていきたいです。
──セ・リーグ同士でコラボレーションした事例があれば教えてください。
2016年の9月2日〜4日に実施された広島東洋カープ戦では「ビアカクテル グリーンビール・レッドビール」を行いました。広島東洋カープのレッド(赤)と、東京ヤクルトスワローズのグリーン(緑)をイメージしました。この企画は大好評でしたね…!
(5)誰でも楽しめる球場を目指して
──最近では神宮球場のホームページを見て、グルメ情報がずいぶん見やすくなったなと思いました。食品のアレルギー表示もありますし。
ありがとうございます。やはりアレルギー情報を掲載したほうが皆様、安全に食事を楽しめますしね。
他にもグルメマップを充実させたいと考えています。ウチではまだ一種類しかありません、他球場では季節によって、グルメ情報も発信しています。私達も早くそのような形にしたいと考えています。
(6)球場も盛り上げてチームを強くする
──新しいグルメを開発する過程で球団との交渉で、苦労したことはありますか?
球団はお客さんに楽しんでもらうために、「どんどんやって欲しい!」と嬉しい言葉を頂いています。明治神宮野球場と、東京ヤクルトスワローズが共に手を取り合いながらお客様を喜ばせる企画を練っています。
──スタッフの皆さんもヤクルトが好きなのですか?
皆、東京ヤクルトスワローズが優勝することを願っていますよ(笑)。もちろん、これまでも私たちは盛り上げようと努力してきました。2015年にやっと球場、球団、ファン、そして選手たちとの間に一体感が生まれてきました。
──2015年はセ・リーグ優勝という素晴らしい結果も残りましたよね。
私たちは球場の雰囲気が良くなればチームも強くなると信じています。実際、広島東洋カープの選手たちは、負けていても球場に通い続けてくれるファンの姿を見続けて「強くなろう」と必死になったと聞いています。だから私達も球場を盛り上げて、お客様に楽しんでもらって、東京ヤクルトスワローズというチームを強くしていきます。グルメの充実もチームを強くするためです(笑)。
現代は待っていても、お客さんが来てくれる時代ではありません。これからも球場にいらっしゃる皆様を魅了する商品をドンドンと提案していきますよ!
──最後に選手プロデュースメニューの売り上げベスト3を教えてください。
「グッチのオム焼きそば」「勝つ男!石川雅規のビクトリーカツサンドセット」「ビッキースペシャル塩ラーメン」の3つですね。この3つは本当に根強い人気を持つので皆さんも是非、味わってください。また、皆様の来場を心からお待ちしています。
・明治神宮野球場
http://www.jingu-stadium.com/
【企画立案】
高野昭喜
【取材・執筆】
小林英隆
※本サイトへの許可なく画像・文章などの無断転載、無断引用を一切、禁じます。